五感に響く、言の葉。

我が家の歴史は備前焼と共に

 

 

私は備前焼の食器が好きだ。

 

今から30年ほど前、好きな雑誌を手に取り眺めていると

ふと飛び込んできたひとつの記事。

青山にある備前焼のギャラリーがオープンするという内容だった。

 

砂が敷き詰められた空間に備前焼がささっている。

なんて斬新でお洒落な空間なんだ!

 

いてもたってもいられず、

私はすぐさまギャラリーを訪ねた。

 

コンクリートが打ちっぱなしのビルの地下1階に、

ひっそりとそのギャラリーはあった。

思っていた通りの、まるで美術館のような空間。

 

ドキドキしながら足を踏み入れると、

「どうぞ手に取ってみてください。肌に馴染むから」と

麻の布を重ね合わせ、

洗練された“いでたち“の店主に勧められた。

ひんやりとした触感なのに、なんだか心がほっこりと温かく感じる備前焼との出逢いだった。

 

 

【料理の仕上げは備前焼】

空間に惹かれ備前焼に癒され、店主に憧れ、

私は少しの間ギャラリーで働くことになった。

店主が接客をするとき、いつも食器を手に取り何を食べるか、

お客さまと話していた。

会話を聴きながら、自分の頭にも料理の映像が浮かんできた。

 

「楕円のお皿にはオムライスをのせよう」

「深いボウルにはポタージュスープだ」

 

妄想は止まらず、ひとつ、また一つと

アルバイトの給金で備前焼を増やしていった。

 

初めてギャラリーを訪れてから2年経ったころ、

私は結婚して集めた備前焼は新しい家の食器棚に並んだ。

料理は特に好きなわけでも得意でもない。

でも、備前焼が彩りを加えてくれたおかげで

料理の楽しさを感じるようになった。

 

 

【温もりをくれる食器】

食器の歴史は我が家の歴史。

真新しかった備前焼も30年という年月が経ち、欠けていたり、深く濃い色に染まっていたり。

白磁の食器に茶渋がつくと汚れていると感じるのに備前焼が色をつけると、なぜかそうは感じない。

 

「味がある」そう、深みを感じる。

 

我が家の食卓を彩ってきた歴史がそこにはあり

温もりとなる。

 

温もりというのは、

こうして育てていく過程で生まれるのだなあと、深く染まった食器たちをみながら改めて思った。

 

 

【日々の小さな喜びが増える】

電子レンジにかけられるとか、収納がしやすいとか、割れにくいとか、食器を選ぶ理由は人それぞれ。

 

私は我が家の料理を一段と美味しくしてくれる備前焼のおかげで、料理が楽しくなったし、家族も喜んでくれた。

ひとつの食器が食卓を彩り、歴史を刻んでくれる。

食器との出逢いが日々の小さな喜びを増やしてくれる。

 

みなさんも食器を選ぶときのひとつの見方として

”機能だけではない”

みなさんや家族の歴史の一部となる

“温もり”を基準に入れてみてはいかがでしょう。