五感に響く、言の葉。

オートクチュールにみる『あさの千幸さんの世界観』vo.2<あさの千幸さんインタビュー>

 

辛いことも多い中でフランスに6年滞在したのは、やはり多くの学びもあったからこそ。

辛さで埋めないのはそれ以上の価値を見いだしていたからにほかなりません。

どんな学びがあったのか、お伺いしました。

 

フランスマダムに学ぶエレガントの世界

 

ー フランスの修行生活の中で得た学びとは?

「フランス人の生活文化ですね。フランスマダムから学びました。フランスマダムは若い子のファッションとは違いハイブランドづくしです。でも、それが見栄などではなく必要なシーンがあり、エレガントを演出するツールという感じで、自然にエレガントを着こなしているのが生活習慣にでていました。社交の場にはきちんとした格好でいくのがマナー。電車やバスには乗らず移動は車。車は運転手付きで自分では運転しないので靴はピンヒール。ピンヒールは街をあるくアイテムではないなど、ひとつ一つにスタイルがあり格好いいんです。ライフスタイルとハイブランドを着ることがちゃんと繋がっています」

 

ー なぜフランスマダムはハイブランドを選択するのでしょう?

「ハイブランドはエレガントを演出するツールで、考えぬかれたデザインや素材のよさ、仕立てのよさなどエレガントには欠かせないこだわりがあると思います。“デザインが細部まで考えられている” “素材がよい” “仕立てがよい” “販売員の教育がきちんとされていて気持ちがよい” などのすべてから、よいエネルギーを受けとることができます。フランスマダムたちは、自分のエネルギーを高めるために『よいエネルギーを受けとり、纏うのが重要だ』と理解されている方が多い気がします。だからこそ、キラキラ輝いている。学生の私にはまぶしい格好よさがオーラとして放出されていて、そこに惹かれたのだと思います」

 

ー では、あさのさんにとってのエレガントとは?

「安心、信用、信頼です!」

 

ー それは自分にとってですか?それとも相手に対してですか?

「両方です。自分にも相手に対しても安心、信用、信頼を与えられる、バランスが取れているのが大事だと思っています。服に袖を通したときの着心地のよさや、快適性、デザイン性など自分にとって心地よいものは自分自身が安心感を持てるし、自分のエネルギーも高まりますよね。また、営業など人と関わるとき、相手に対して心地よい服を選択するのもひとつの信用につながると思います。やはり、どういうところを気にしているのか、どういう考えを持っているのか、選ぶ服ひとつをとっても相手には伝わると思うんです。また、こだわって選べば、その分選んだ服に愛着もわきますし、大切に扱いますよね。たとえば、白の服。汚れるからと場所によっては敬遠されがちですが、汚れるからこそ汚れないように気をつけたり、汚れたら念入りに汚れを落としたりします。『白を着ているからちゃんとしなきゃいけない』と、丁寧に扱うようになるんです。また、白には見た目も清潔感や清楚感などの印象がありますよね。着るもので意識も印象も変わります。だからこそ、エレガントというのはつくるところから意識しないとダメなんです。私の服も着てくれる人がどれだけいいエネルギーを持てるか、すごく考えながらつくっています」

 

 

ー フランスマダムの話をしていたら嬉しそうにもうひとつのエピソードを語ってくれました。

「スーパーでレジ打ちをしていた女性の話です。おそらく60~70代の女性だろうと思いますが、ブラジャーをせず、スケスケのレースのブラウスを着てレジ打ちをしていたんですよ。レジが行列になっているのもおかまいなしに、後ろのレジの女性がスケスケブラウスの女性に『あなた、今日デートなの?』と聞くと『今日はね。ダンナとデートなの』って、おしゃべりしながらレジ打ちしているんです。自分のスタイルを貫くフランスマダムはすごいって思いました(笑)」

 

ー 服がひとり歩きをするのではなく、歳を重ねても彩りを忘れないフランスマダムの生き方と、意志のあるファッションの選択は、あさのさんのデザイナーとして描く世界に大きな影響を与えていったようです。

 

あさのさんの考えるオートクチュールの世界感

 

ー あさのさんの考えるオートクチュールの世界とは?

「私の中では“オートクチュール=大人のこだわりあるエレガントなファッション”です」

 

ー オートクチュールにこだわる理由は何でしょうか。

「やはり生きたものをつくりたい、意味のあるものをつくりたいですね。ただデザインにこだわっているだけだったら、自分の世界観で量産品をつくっていると思います。そうではなくて、ひとつの洋服に魂をこめるというのが私なのかなって。つくった服を纏った人がどんどん幸せになっていく姿をみてきているから、そういう人たちを増やしていきたいです」

 

 

ー あさのさんの手がけるオートクチュールの制作に携わっている技術者の皆さんについて、どんなこだわりをお持ちでしょうか?

「丁寧で安心で愛があることです」

 

ー 丁寧で安心で愛があるとは?

「オーダーメイドでつくっていただいているもの全般に感じるのですが、たとえば、スーツのファクトリーは作業工程が400以上もあり、ひとつ一つの工程が丁寧で間違いがほぼない。制作に携わっている皆さんには『これでいいだろう』『これだと売れるだろう』『これだといくらだったら安いって感じるだろう』という考えはなく、仕上がりの美しさをめざすことに注力し、責任を持ってくださる。どの工程も少しでも手を抜くと仕上がりが美しくならないのを知っているからだと思います。丁寧にやっているからこそ間違いがあったとしても、その対応の細やかさは素晴らしく、愛を感じます」

 

ー ハイブランドにみたこだわりが、あさのさんのつくるもの、かかわる人にすべて繋がっているのだなと感じました。纏う人が幸せになるために何が一番であるかの追求が、オートクチュールにこだわり続けてきたゆえんなのかも知れません。