五感に響く、言の葉。

新たな価値から生まれた”温もりハウス” vol.2<岡野則子さんインタビュー>

 

―病気の宣告から気づく新たな価値観―

40歳のとき軽い気持ちで受けた健康診断で再検査を指示されました。

その後の検査結果は大腸癌のステージ3。

突然訪れた病気の宣告でどん底の気持ちになりながら岡野さんがたどり着いたのは、

”食の大切さ”でした。

 

「病気の部位が大腸という消化器官だったので、腸によい食べものを調べました。

おそらく癌を患ってしまった方は、

どの食べものが癌の予防や進行を防ぐのによいのかに関心が向くと思いますが、

私もその一人でした。

癌予防と食べものの関係についていろいろな本や記事を読み進めるなかで、

マクロビオティックというものに出逢いました。

マクロビオティックの考え方のなかで、

“you are what you eat – 人の身体と心は食べたものでできている” とあり、

まさにその通りだと思いましたし(食べものだけではなく環境など他の要因もありますが)

“食養 – 食事で養生、身体を整える”という言葉に惹かれました。

植物性の食事を続けていると身体も軽くなり、余計に考え込んだり、

くよくよ悩んだりせずさっぱりとした感覚をこの身で体験しました」

 

 

―“食の大切さ”と同時に、岡野さんが気づいた生活環境や人としてのあり方などの新しい価値観とは?

 

「すべてが変わりました。」

「どこに勤めて何を着てどこにいってなど、みえるものに価値を感じていましたが

病気がわかってからはみえるものの奥深さを感じるようになりました。

人の見方も同じように、どういう人で、どういう考え方をもって生きているのか。

どう思われるかというよりも、どうありたいか、どうあるかというのが、

とても大事でより本質的なものに目がゆくようになりました」

 

―マイナス思考にならず、前向きに考えられたのはなぜだったのでしょう。

 

「きっかけはなく自分でも不思議でしたが

病気になり1年後に死ぬかもしれないと考えたとき、

1年間泣いて落ち込んで誰かを恨んだり悔やんだりして過ごすのは

もったいないと思いました。

もし自分の命があと1年しかないとしたら

泣いても治らないならやりたいことやって楽しく過ごしたいと」

 

「癌を患った人が一番幸せだといわれたことがあって……」

 

―ちょっと驚く私に岡野さんは迷いなく続けます。

 

「自分の死期がわかっているからそれまでに好きなことができる。

1ヶ月後の話なんてとてもできなかったけど、

1ヶ月後2ヶ月後の話を平気でしているのがありがたい、というかありえない。

明日がある奇跡がどんなに貴重かというのを実感しました。

5年生き延びられたら本望で、5年以上は自分にとってはおまけ。

だから何でもありがたい。

毎日起きて身体のこと何にも考えないで、

変にイライラしたりするのすらありがたいと思う。

自分が病気だったらそうも思えないじゃない」

 

―病気が変えた価値観。

 

これほどまでの美しい強さに私は出逢ったことがない。

病気という “バネ” で、

岡野さんは自分という山を大きくジャンプしているように思えました。

 

「あと1年といわれたわけではないけど、ステージ3だったから覚悟はしました。

抗がん剤を飲んで毎月病院にいって、3ヶ月に1回CTを撮るたびに

どこかに影をみつけたり常に何か心配事があり。

でも転移はなく今は薬も飲んでないです」

 

―その後も大腸癌の症状や健康診断の大切さについてじっくり話していただきました。

 

また、健康診断の会場ではボランティアでご自身の経験談を話すなど、

健康診断受診の普及にも努めていらっしゃいます。

 

―自分は媒体―

 

癌の治療が始まってから3年、病気と向き合いながらも結婚をして

自身のお店をもつ目標に向けて新たな人生を歩まれます。

病気を通してみつけた新たな価値観、食と健康診断の大切さ、

自分の身体について知るにはどう伝えていけばいいのか。

岡野さんの選択は “自分でハウスをもって、温める“ でした。

 

 

「どうやって伝えていくかというので、

どこかにいろいろいくよりもお店をもつというのが私にはあってるのかなと。

ずっと接客をやっていたからお客さんにきていただくという方が

自分にはしっくりくるように思いました。

最初は飲みものと”お昼の時間もあけるから何か食べものもださなきゃな”

くらいの気持ちだったのに、気がついたらランチがメインになっていました(笑)」

 

―食の大切さをはじめ、病気を通して生まれた価値観や人との出逢いとともに、

“自分でハウスをもって、温める”というお店づくりが明確になった岡野さん。

ご自身の想いとお店のコンセプトがとけあい、歩みが加速しはじめたようです。

 

「食の大切さを伝えたい。自分がマクロビオティックをはじめ食事を変えたら、

身体の調子がよくなりました。

身体が変わると心も変わり、

性格も変わって人生も変わるという好循環を体験しました。

だからまずは食を見直してみませんか。

マクロビオティックはお肉ダメ、と思われがちだけどそうではなくて

まずはいい調味料を使おうとか、野菜もちゃんと育てたものを食べようとか、

押しつけではなく伝えていきたいと思いました」

 

―マクロビオティックについて語る岡野さんは真剣そのもの。

ただ、人にはさまざまな価値観があり、決して押しつけてはいけない。

自分は選択肢をきちんと伝え、どれを選ぶかは人それぞれ。

お店に入ったときに感じる居心地のよさは、

岡野さんの確固たる意志と人を尊重する心にあるのだなと感じました。

 

―お店を通して得たもので一番大切にしていることは何ですかという問いに、

発せられる言葉は一貫して “お客さま” でした。

 

「自分は媒体。自分を通して気づいてもらいたい。

だから私がこうなりたいとか自己実現はあまりないですね。

本当に、このお店の一番の自慢は何ですか、と聞かれたら

間違いなくお客さまで、とにかくみなさん気遣いが素晴らしいんです。

たとえば、レジ袋有料化の前から袋いりませんっていう方がほとんどでしたし、

忙しそうにしていると ”お時間あるときに会計してね” と気遣ってくれたり、

“別の用事で休みます”といったら ”体調大丈夫ですか” と声をかけてくれたり」

 

―お客さまファーストな岡野さんだから

お客さまから親切という贈りものをいただけるのでしょう。

若い人からは恋愛や就職の相談もされ、

人と人のつながりでお店は温かい空間に包まれているようです。

 

「そのときの気持ちを大事にすることが次につながっている。

地道にきてくださる方が本当に大事。

お客さまとの会話からなるほどね、と思ったり、新しい情報を得たり、

周りに知識の肉がついてくるというかそういう感じ。

有機的な場所でありたいし、そう感じたときは嬉しいです。

 

 

―お客さまの話をしているときの岡野さんの目はとても清らかで美しい。

そんな岡野さんにとっての大変なこととは?

 

「体力的なこと。やりすぎといわれるときも、倒れるときも。

でも手を抜くと自分が満足できなくて結局またがんばってしまう。

なので、最近はいろんな方をお店に招いて自分の時間を作るようにしています。

1年半前くらいからご縁あって整体の方にお店の一部をお貸ししてますし、

週に一度は他の方にイベントをお願いして自分はホールにいるようになりました。

お客さまも新しいイベントや商品が入ると喜んできてくださいますし、

“誤発注で買いすぎました” とSNSで書いたらみんな買いにきてくれて

本当にいい人たちばかりで」

 

―大変なことをうかがっても、最後にはお客さまの素晴らしさを語っている岡野さん。

本当に魅力的な人だと思いました。

2018年のオープンから4年が経ち、

岡野さん自身に気持ちの変化はあったのでしょうか。

 

「これまでお店、寝る、お店、寝るの毎日で

自分にまったく手をかけてあげてなかったから

少しお店のペースを落として自分にも手をかけてあげたい。

イベントをやったり目新たらしいものを取り入れたり、

効率化を図っていきたいと思います」

 

―今後の事業の取り組みについて、考えをお聞かせください。

 

「イベントや生産者さんに販売をしてもらうなど

いろんな取り組みをやって新しい方にも広めたい。

月島ならこのお店といわれるくらいになりたい。

取り組みをするためにも人を増やすことも考えています。

また、お店に対しては看板をきれいにしたいし黒板を利用したい

そんな時間を作っていきたい。きめ細やかなところを整えたい。

一個一個やっていきたいです」

 

―常にお客さま目線でお店を考える岡野さん。

野望もやはりお客さまとの温かく居ごこちのよいお店づくりでした。

 

病気や目の前の現実を受け入れたからこそ

新たな価値観がみつけられ、人との出逢いにも導かれた人生。

道のりは長かったかもしれませんが

岡野さんの想いは?

仕事や日々の出来事に悩んでいるヒントにも。

次回もぜひ!ご覧ください。

 

vol.1「一生する仕事を探して vol.1 <岡野則子さんインタビュー>」はこちら↓

https://woman-dl.com/2023320/