五感に響く、言の葉。

動かなければ何も始まらないvo.1<ギャラリーオーナー 木村和子さんインタビュー>

 

何飲みたい?

ギャラリーに到着するや、まるでご自宅へ伺ったようにおもてなしくださったのは

代官山でギャラリーを運営されている木村和子さん。

2024年の9月末でオープンから丸15年を迎えるという。

 

長く続けていられる秘訣を伺いたくインタビューをお願いした。

木村さんとは私がフォトグラファーをめざしていた20年以上前からのお付き合いで、木村さんもまた写真を撮る世界で活動をされていた。

撮る側から運営側への転身。いつの時代も生き生きと木村さんらしい自然体な生き方をされている源はどこにあるのか、お話を伺いました。

 

ーギャラリー運営はフォトグラファーとして活動する前から考えていましたか?

自分でもなぜギャラリーをやろうと思ったのか、実はよく覚えてないの。

ただ昔から考えていたわけではなく、ブライダルのフォトグラファーをしているときに体力の限界を感じて、何かしようかなと考えるようになりました。そうしたら「ギャラリーなんかいいんじゃない?」という声を周りの友人などから聞くようになってね。

すると「それならいろんなところを見にいこう」という人がでてきたりして、そうやって始めることになったので、あまりちゃんとした根拠がないの。

身内には反対されたけれど、まだまだいろんなことしたいなという想いがあったから始めたのかも知れないですね。

 

ー代官山の物件は探し始めてどのくらいで決めたのですか?

その当時いろいろ手伝ってくださった方と一緒に12〜13件は見ましたね。

場所は青山か代官山あたりに絞って探したけれどなかなかいい物件がなくて「もういいや、やめよう」と思ったときにこの物件に出逢ったんです。

入り口にある木の階段がとても気に入ってね。のぼってくるとき、なんとなくリゾート地っぽい雰囲気がするでしょ。奥まできて中を見たときは今とはまったく違う事務の仕事で使われていたのだけれど、窓を見たときに「私ここで働ける」と感じたんです。

 

ーまさに直感ですね。

そう。直感で窓が自分なりの決め手になりました。

自然光がとてもきれいに入るでしょ。普通は展示物に安定した光を当てようと思うから、窓があっても塞いで自然光ではなく人工光を使いますよね。ここは自然光が入るから大変といえば大変。でもそれが逆に気に入ったのかも知れない。

光の移り変わりがあるからね。

例えば窓辺にサンキャッチャーなどつり下げると、時間によって白壁や床に映る色形の変化が楽しめるし、透ける素材の和紙作品はより一層温かさが伝わってきたりするから、やはり窓があってよかったなあと今でも思っています。

 

 

あと、代官山は住宅地でもあって、住んでいる方と店舗がミックスされているから落ち着きがあるように感じるかな。店舗だけだとビジネス感が強くなりがちだけれど、住居があることで店舗が代官山の暮らしに馴染んでいく。だからゆったりしているというか、生活の延長にあると感じる店が多いような気がします。

 

ー ギャラリーを運営する中で苦労した点は何でしょうか?

それはもう集客です。特に始めたばかりのときは、「WEBサイトって何?」という知識レベルだったので、どうやって人を集めたらいいのかわかりませんでした。普通はギャラリーや他の仕事でも新しく何かを始める最初の3ヶ月は、知人や友人に声をかけて動かしていくものみたいだけれど、私は性格上すぐ始めちゃってね。

「集客ってどうするの?」って、ただ呆然とここに座っている3ヶ月でした。

それでもお客さまからご紹介いただいた方にWEBサイトを制作してもらい、私はとにかくWEBサイトとDMでお知らせをするというやり方をとっていました。DMも最初はギャラリーに芳名帳をおき、いらしてくださったみなさんに書いてもらって顧客リストを作るという地道な作業でしたね。

 

ー最初の展示者はどんな方だったのですか?

このギャラリーの立ち上げを手伝ってくれた友人です。

某写真教室で知り合った方で次第に仲良くなり、ギャラリーの話をしたら心配だからと手伝ってくださいました。そのあとは、ふらっとギャラリーにいらした方がギャラリーのあるマンションをご存知の方で、ご自身の商品を販売するところを探してらしたのね。

それでここを利用してくださったのが最初で、今もずっと続けてご利用いただいています。

オープンしたのが10月で12月くらいまでは何をしていいかわからなくて何もしてなかったのだけど、見かねた知人や友人が「他のギャラリーの展示を見にいって、作品を気に入ったら作家さんに声をかけるんですよ」とアドバイスをくれてね。それならとギャラリーにいってみたものの、今度はどうやって作家さんに声をかけたらいいかわからなくて・・・・・・

とにかくまずは名刺を作って、「ここで展示をしませんか」って、今展示している人にそんなこといっても無駄なのに、最初はそうやって声をかけていましたね。そうしたら「グループ展ならハードルが下がるかな」とだんだん学習して、アプローチの方法も変えていきました。

周りの人にも「10件アプローチして1件契約できたら大成功よ」といわれて、気が楽になったなあ。

それで、ギャラリーを巡っては声かけを繰り返し、作家さんがいらっしゃらないときはメッセージを残して。するとメッセージを見た作家さんがすぐお返事をくださってね。

そんな作家さんとは今でも繋がっています。

そうやって、ひとり、またひとりと展示してくださる方が増えていったのかな。

 

ーなるほど。地道ですね。でも、やはり足を運ぶって大切なのですね。

そう。待っていちゃダメ。

動かなければ何も始まらない。すべてそうだと思いますね。

座っていても、展示をしたいとふらっといらっしゃる作家さんは1000人にひとりくらいはいるかも知れないけれど、まずありえないわよね。

それからだんだん慣れてきて、どこかのギャラリーを尋ねたら反応があってもなくても必ず1枚は名刺を渡してこようと、そうしてだんだんと広がっていきました。

でも、やっぱりここにいらしてくださった方からの広がりが一番大きかったのかも。

一度展示してくださった方のお客さまが展示をしてくださる機会も徐々に増え、「自分は絵を描くのだけど絵でもいいですか?」と、最初は写真だけのつもりだったけれど、「じゃあどうぞお願いします」ってだんだんジャンルも増えていったのね。

とはいえ、闇雲に増やすつもりはなくてね。

例えばSNSなどで、いい作品を見つけてもお会いしたことのないまったく知らない方だと心配でストレスにつながるのも嫌なので、お客さまがたとえ少なくても利用してくださった方のご紹介で細々とやっています(笑)。

今になって思うのは、だからこそ人の輪ができたのかなって。

 

 

ーギャラリーを始めて得たものは何ですか?

多すぎて何からお伝えしたらいいのかわからないけれど、やはりこのギャラリーのスローガン「アートを通して広げよう人の輪を」の通り、私が一番願っていた人の輪が広がったし、人の輪から得ることが一番多いかなと思います。

一番はエネルギーだけれど、あとはいろいろな作風とか自分の知らないものを知れる。作家さんがこのギャラリーでワークショップを開催されるときは、必ず参加させていただくのね。体験した後で作家さんの作品を見返すと、改めて作品の素晴らしさに気づくんです。知らなかったものを知り体験することで興味がわき、さらに他の展示も見にいくと自分自身もどんどん膨らんでいくから、私は好奇心が強い方だと思うけれどそれがギャラリーを営むにはプラスに働いているなと感じています。

あと、集まってくる人は似ているのかな。似ているなと思う方は居心地良く感じてくださってリピートにも繋がっているのだと思います。

 

 <vo.1を終えて>

「がむしゃらにやりたいことに向かって突き進む」というよりは、流れに身を任せその時々の想いを大切に歩まれている。しかし、ただ波がくるのを待つのではなく、波のある方へと向かう好奇心の強さがどんどん道を切り拓いていく。

「待っていてはだめ」

それは、まさに開拓者のことばだ。

木村さんの好奇心に人々は引き込まれ、人の輪が生まれていく。

先を見据えるとは、一瞬一瞬を大切にする想いの結果なのではないか。

木村さんのお話を伺い、改めて未来は今の積み重ねなのだと感じた。